Translator's BLOG

先日、私が講師を務めた某オンライン講座のリアルオフ会がありました。講座後もチャットアプリを使ってやり取りが続いていて、1人が「この日に上京します」とコメントしたのをきっかけに、じゃあ集まろうとオフ会が実現したのです。近くは横浜、遠くはオーストラリア(ちょうど一時帰国中)から集合して、リアル乾杯ができました! 楽しかった! 全員集合とはいかなかったので、また集まる口実ができました。


そのオーストラリア在住のJさんから、すご~く嬉しいことを聞いたので、今回はそのお話。


私がこのブログを始めるずっと前、10年くらい前かな。同業の友人たちと「トリローグ」というブログを書いていました。声をかけてくれたのは、いまや配信作品を中心に大活躍のちょこちゃん。まだお互い仕事の広げ方を模索していた時期で、「玉置部部長」ことEちゃんも参加して3人でスタート。3人のモノローグだからトリローグ。そこに翻訳以外のことはお任せの敏腕助っ人Mちゃんが加わり、4人で代わりばんこに日々の記録を綴りました。


当時は発信する翻訳者が少なかったこともあり、ブログをきっかけに翻訳系のイベントに呼んでいただいたり、専門誌で紹介していただいたり、経歴10年前後にしては身に余る光栄な機会をいただいたものです。私たちも(今より)若くて勢いがあり、怖いもの知らずだったなと、振り返ると冷や汗が出るものの、楽しい経験でした。しだいに業界のセキュリティが厳しくなって書けることも少なくなり、仕事が忙しくなったのもあり、2年ほどでブログを閉じました。


短い期間で閉じたトリローグですが、たまに「読んでました」と言われると、嬉しさと恥ずかしさで何とも言えない気持ちになります。何しろ、業界をよく知らないからこそ書けたことも多かったのです。Jさんもオーストラリアでトリローグを読んでいて、なんと映像翻訳の勉強を再開するきっかけになったんだとか。


Jさんは翻訳のスクールを終えた頃に、結婚して渡豪することになり、「日本にいなければ映像翻訳の仕事は無理」と言われて諦めました。今は仕事の素材をネットでやり取りできますが、当時はまだビデオテープでやり取りしていた時代。私も仕事を始めた頃は、バイク便や、制作会社の人が最寄り駅に来て素材をもらったりしてました。


そんなJさん、トリローグを読んで「やっぱり映像翻訳をやりたい」という気持ちに火がついたのだそう。やがて、コロナ禍をきっかけにオンライン講座が増え、学び直しを始めたのです。そして、いまや海外にいても映像翻訳の仕事ができる時代に。海外拠点の会社も増え、シミュレーションや初号試写に立ち会わない仕事なら、どこにいてもできてしまいます。実際、Jさんも制作会社のトライアルを受けて仕事を始めつつ、いろんな講座を受けて学びを継続。Wakkaのお手伝いまでしてくれています(ありがたや~)!


10年前に手探りでやっていたブログが、海を越えてJさんの心に響き、行動のきっかけになっていたと知り、じわじわと嬉しさがこみ上げました。発信を続けていると、こういうことがたまに起こります。思わぬところで誰かに影響を与えていて、意外な反応が起きる。


もちろん、いい影響ばかりじゃないだろうし、受け取る人の気持ちはコントロールできない。だから、細心の注意を払ったうえで、ある程度は仕方ないと覚悟を決めています。とはいえ、ブログをアップする時は毎回ドキドキするので、Jさんの話はものすごく励みになりました。少しずつでも発信を続けてきて、本当によかった。Jさん、伝えてくれてありがとう! トリローグを代表してお礼を伝えます♡


「英語の友」で連載中のコラムも、実はブログをきっかけに始まりました。字幕を担当した映画『ハード・トゥルース 母の日に願うこと』のセリフを解説しているので、観る前に読む、をお薦めします!


写真は2度目の江の浦測候所。手前の小さな石は「この先は危険だから行かないでね」の目印です。人生にも、そういう目印があるといいなあ。


ゼミ第2期、ただいま募集中です! 詳しくはこちらをどうぞ。

ようやく秋めいてきました。モンブランと栗きんとんの季節です。栗づくし♡

この夏は引っ越しという重大ミッションがあったので、無事に秋を迎えられて感慨ひとしお。ものすご~く大変でしたが、半年間ずっと気がかりだったことが片付いて、スッキリしました。

さあ、仕事に集中! と、その前に観た映画が話題作『ワン・バトル・アフター・アナザー』

ポール・トーマス・アンダーソン監督×レオナルド・ディカプリオ×ベニチオ・デル・トロ×ショーン・ペンとあらば、面白くないわけがない。3時間という超長尺も『RRR』『国宝』で免疫がついているから問題なし! 

案の定あっという間で、終わるのが寂しくなるほど最高にワクワクする映画体験でした。アメリカの映画館でポップコーンを抱えながら、笑って叫んで盛り上がって観たい映画です。


でね、この映画体験をさらに盛り上げてくれたのが字幕! 翻訳仲間の間で「すごい」と話題になるほどで、私もたくさんメモしちゃいました。

字幕を手がけたのは、同業者だけでなく映画好きの間でも絶大な信頼を得る松浦美奈さん。もう惚れぼれする字幕でした。

Is this funny? 「茶化す気か?」Fuck out here. 「目障りなだけ」Don’t panic. 「テンパるな」Don’t get selfish. 「うぬぼれるな」などなど、マネしたい訳がたくさん。

中でも特筆すべきは、レオ演じる父親が高校生の娘に友人について聞く会話です。


父:Now is that a he or a she or a they?

heかsheかtheyか?

父:Are they transitioning? I want to know.

性別移行中か

娘:Nonbinary.

ノンバイナリーよ

娘:It’s not that hard, they, them.

簡単でしょ they / themよ


なんと、近年、翻訳者を悩ませている三人称単数のtheyが、そのまま登場しました!


私が最初にこのtheyを目にしたのは2016年、ドラマ『ビリオンズ』のシーズン2。10年近く前です。

北米のドラマで初めてノンバイナリーのキャラが登場し、「私の三人称は単数扱いのtheyで」と自己紹介。初めて見る使い方で「はて?」と、ネットで調べて「女性とも男性とも分けられたくない人が好む代名詞」だと知りました。そのときはノンバイナリーもtheyも日本で知られていなかったのもあり、悩んだ末に「彼ら」と訳しました。あれからずっと気になっていて、今なら「あの人」と訳すかな、字幕だとそれも分かりづらいかもと、ことあるごとに考えています。

そんな中でのthey。事前に同業者から聞いていたものの、声を上げそうになりました。


前に文芸翻訳家の方と話していて、「ゼイ」と訳す案が出ましたが、注釈をつけられない字幕では厳しいなぁと思ったのが本音です。今回のtheyは流れの分かりやすさもありますが、ノンバイナリーが浸透してきたことの表れでもある。実際、このやり取りの時に軽い笑い声が聞こえたので、ちゃんと伝わっているんだなと、なんだかうれしくなりました。


今後、ノンバイナリーのthey「they」と訳すかどうかは、作品のコンテクストやセリフ、視聴者層にもよるでしょう。勝手な憶測ではありますが、大ベテランの字幕翻訳家とはいえ、「they」と訳すのは勇気が要ることですし、制作会社や配給会社との信頼関係あってこそだと思います。字幕の素晴らしさもさることながら、いろんな意味で、あの域にたどり着くには越えなきゃならない大河が何本もあると、つくづく思い知りました。

憧れの先輩方がいて、近づいたと思ったら、また引き離される。だからこそ、飽きないし面白い! 翻訳に限らず、先人の背を追いかけて好きなことを突き詰められるのは、人生の喜びですね。


さて、そんな私が、字幕学習サイトvShareRでオンラインの字幕講座「岩辺ゼミ」第2期をやります。自称「中堅」だからこそ、教えられることもあるはず。少しでも、お役に立てればうれしいです。

おかげさまで1期は人に恵まれ、今も楽しく情報シェアをしています。2期での一期一会の出会いも楽しみにしています!

ご興味のある方は、ぜひサイトをご覧ください。

【第2期】vShareR 字幕翻訳塾 岩辺ゼミ / 申込締切:11月6日(木)

1ヵ月ぶりのブログになりました。

人生最大の断捨離をしているうちに、夏が終わりそう。(この話は長くなるので、また改めて。)

そんな中、念願のWakkaラジオを始めました!(パチパチパチ)

去年から「Wakkaラジオをやりたい」と言いつつ腰が重かったのですが、今年1月のvShareR主催の映像翻訳フェスで単発の「Wakkaラジオ」をやったのをきっかけに、本格始動となりました。

運営チームで内容を詰めて、あやさんあさこさん、私の3人でナビゲーター(かっこいい響き)を務め、お手伝いチームからは、フランス在住のあやこさんに編集として加わっていただきました。

Zoomでお互いの顔を見ながらstand fmで収録するという方法で、初回の収録を終えて一般公開へ!

直前まで「stand fmにログインできない!」と大騒ぎだったのは内緒。反省点だらけですが、まずはスタートできたことが大事♡

映像翻訳者もそうでない人も、ホッとできるようなラジオを目指して、コツコツ頑張ります。


さて、タイトルの「自立するとは、頼れる人を増やすこと」というのは、少し前に読み終えた本『冒険の書』(孫太蔵 著)にあった言葉。

著者の孫さんが「学びは楽しいはずなのに、なぜ学校教育はつまらないのだろう」という疑問から出発し、今の教育の土台にある思想や、制度が作られる過程をさかのぼって見ていく壮大な書で、読了までだいぶかかりました。

読書日記にするほどには内容を落とし込めていないので、本の終盤に出てきてハッとした言葉だけを紹介します。

これは、脳性麻痺でありながら医師として活躍する熊谷晋一郎さんの言葉です。人に頼らず生きることが自立だと思われがちだけれど、障害の有無にかかわらず、人は誰にも頼らず生きていくことなどできない。親だけに頼っている状態から、社会の中に頼れる相手を増やしていくことこそ、真の「自立」だと説明しています。


自分を振り返ってみても、一人で頑張っていたときよりも、人に頼るようになってからのほうが、人生はずっとラクだし、できることもずっと大きく広がりました。自分が頼ることで周りにいい影響を与えたり、自分も頼られて想像以上の力を発揮できたり、そんなことをひしひしと実感しています。

頼られるということも大事で、頼るだけのクレクレ星人は楽しくないだろうなと思っちゃいます。そういう時期があってもいいけれど、人の役に立てる喜びは絶対に欲しい。

人生後半戦を迎えて知る「自立」の醍醐味と楽しさ。もっともっと自立していきます!

夏ですね。

映画館にこもりたくなる季節です♡

暑くなるとジメッとした映画を避けて、背筋の凍るようなホラーやスカッとするアクションが観たくなります。

単純なのでね。


というわけで観ました。『スーパーマン』

ジェームズ・ガン監督の待望の新作とあり、周りでも期待の声が高かったDC作品。

いや~面白かった!

ただ強いだけじゃない、最も人間(マン)らしい悩めるスーパーマン。

どんなに地球のために戦っても、自分は異邦人(エイリアン)でしかないのか。

世界中で起きている移民排斥の動きに疑問を投げかけるテーマになっています。


スーパーマン役のデイビッド・コレンスウェットがたまに見せる気弱な表情が何とも良く、敵役レックス・ルーサー役のニコラス・ホルト(『陪審員2番』の彼!)もハマり役。

だけど、今回のMVPは何と言っても、スーパードッグのクリプト

もう冒頭から「え~!?」と声が出ちゃうほどの活躍(?)ぶり。

じゃれ方が激しすぎて、かわいすぎる。そしてちょっとおバカ♡

ちなみに冒頭のシーンが『ドラゴンボール』へのオマージュと思ってしまうのは、私だけ?


字幕はわが師匠アンゼたかしさん。吹替も担当していて、こちらも観たい!

ものすごいセリフ量ですが、作品世界にピッタリの字幕で、クスッと笑えるセリフも見事に日本語で表現していました。

あれもこれもメモしたかったけれど、映画にのめりこんでしまったので、2つだけご紹介。


傷ついたスーパーマンを見たサポートロボットのセリフ

Our poor Superman.

(字幕)おいたわしい


ルーサーがスーパーマンの背後で言い放つセリフ。

Superman.

He’s not a man. He’s an it.

(字幕)スーパーマン

    “人”じゃない 異物だ   *「人」に「マン」のルビ


もうね、ロボットの言い方が「おいたわしい」以外の何ものでもないんです。

自分には感情がないと言い張るロボットなだけに、かえってキュンとしちゃいました。

Itを「異物」と言い切った訳もかっこいい!

スーパーマンを傷つけるセリフなので、これくらいの強さがピッタリ。師匠、さすがです!


とにかく今までにない人間らしいスーパーマン。私は一番好き♡

次作が楽しみです!


鬼滅目当ての人混みでポスターが見つけられなかったので、クリアファイルの写真をパチリ。意外といいかも?

あっという間に2か月も空いてしまいました。

インスタを見ていただいている方はご存じのとおり、アイスランド&フランスの旅へ出ていました。

フランスは去年に引き続き、仕事のためのブラッシュアップも兼ねてですが、アイスランドは初上陸! ず~っと行きたかった国なので、航空券を予約した日からドキドキワクワク♡

初めは1人旅の予定で準備。ところが出発の1週間前に、大学時代の友人がドイツから参加することに。宿泊先や現地ツアーを変更してバタバタしましたが、結果的に1人より2人のほうが何倍も楽しい旅になりました!


そもそも、アイスランドに行きたいと思ったきっかけは、高校時代のカナダ留学でアイスランド人の友人と出会ったこと。留学先がものすごい田舎だったこともあり、留学生でよくつるんでは、ブーブー文句を言ってました。振り返ると反省することだらけですが、高校生にとって遊ぶ場所がないというのは、結構つらかったんです。

その後、音信不通になったものの、FBでつながり、たま~にやりとりをするようになり、彼が投稿する写真を見ては興味を募らせていました。今回、3●年ぶりに再会を実現! ローカルならではのスポットへ案内してもらったり、ご自宅へ食事に招いてもらいました。感謝♡


もう1つ行きたかった理由は、アイスランドの映画を何本か訳したから。そこに映し出される風景や、人々の暮らしに惹かれました。

私が訳した映画は、こちら。

『たちあがる女』

『ハートストーン』

『好きにならずにいられない』

他にもドラマを何本か訳しています。

実は『好きにならずにいられない』には、先ほどのアイスランド人の友人が出演していました!

翻訳中には知らなかったのですが、公開のお知らせをFBに載せたところ、彼から「出演してる」と連絡が。監督が知り合いで、警官役で出ていたのだそうです。当時、彼は本当に警官で、彼の趣味の部屋も撮影で使われていました。見直したけれど、高校生の頃の面影がなくて分からなかったのは内緒。


そんなこんなで訪れた念願のアイスランド。今まで訪れたどの国ともまったく違う、見たことのない壮大な風景が広がっていました。ざっくり言うと、ザ・地球! 火と氷の国と言われるとおり、活火山と滝と氷河が大地の大半を占め、地球の活動を目の当たりにする感じ。1つ1つの規模が大きすぎて、自然がすばらしすぎて、生き物がちっぽけすぎて、こんな私が地球に住まわせてもらってありがとうという気持ちになりました。変な言い方だけれど、肩の荷が下りるというか、ホッとする感じ。

しょせん人間がどうあがいたところで、自然にはかなわない。だったら、今の状況を受け入れて、ここにいる奇跡をただただ味わおう。そんな諦めに似た、でも今という瞬間が尊くなるような、幸せな気持ちになりました。


そして、映画で見た景色をこの目で見るのは、とにかく感動します♡

『たちあがる女』で倒していた鉄塔や、『ハートストーン』でキャンプをしていた草原や、さらには大好きな『インターステラ-』の氷河や、ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の巨大な岩に囲まれたエリアなど、心の中できゃーきゃー叫んでいました。

ちなみに、アイスランドでは映画産業への税制優遇があり、海外からのロケも積極的に受け入れているのだそう。人口40万人ほどの小さな国なのに、質の高い映画が多いのも納得です。

まだまだシェアしたいことがたくさんありますが、今回はここまで。またタイミングを見て書きますね。

そうそう、機内のビデオに字幕担当作『We Live in Time この時を生きて』がありました。ひとりで、ほくそ笑んだ私です。

新しいローマ教皇を決めるコンクラーベが始まりますね。世界中から枢機卿が集まって行う秘密投票と聞くだけで、好奇心がかき立てられます。

私が初めてコンクラーベを知ったのは、ダン・ブラウン『天使と悪魔』でした。そして今、その神秘に迫る映画『教皇選挙』が話題沸騰中。

先日ようやく観てきたのですが、どの回も満席。映画館があんなにごった返しているのを、久しぶりに見ました。それだけでも、ワクワクします。


映画は前評判どおり、キリキリするような心理サスペンス。立派な枢機卿たちがタヌキに見えてくるほど(失礼!)、化かし合いと腹の探り合いがすさまじい。

脚本(脚色)は『裏切りのサーカス』ピーター・ストローハンなんですね。納得!監督は『西部戦線異状なし』エドワード・ベルガー。主役のレイフ・ファインズもハマり役でした。


ストーリーについては、鑑賞後に公式サイトにある大人気ライターISOさんのネタバレ解説を読んでいただくとして、翻訳者としては、やはり字幕に触れられずにいられません!


もうね、同業者の間で話題になるほど、渡邉貴子さんの字幕が素晴らしいんです。前にドラマの翻訳でご一緒した時に、歴史ものにピッタリの格調高い渡邉さんの訳に、「これぞ美しい日本語」とうなりました。

『教皇選挙』では、日本人になじみのないテーマで専門用語が飛び交い、英語とイタリア語とスペイン語とラテン語と…いくつもの言語が使われ、セリフ劇のミステリー。想像するだけで、はげそうです。

それを字数制限の中で必要な情報を入れつつ読みやすく整理して、なおかつ作品に合った日本語にするという神業。


さらに、短い決めゼリフの訳がまたカッコいいんです!

例えば、同業の友人があげていた、こちらの字幕。レイフ・ファインズが型通りのスピーチを切り上げる時のひと言。


But you all know that.

つまらんな


はい、これ、私も「うお!」って声が出そうでした。

こちらも好き。


Don’t be naive!

きれい事を!


こういう短いセリフの字幕が、話者の表情や声のトーンとピタッと合うと気持ちいい!

どこのセリフかは、ぜひ劇場でご確認ください。

本当はもっと長い字幕もあげたいんですが、書き取る余裕はまったくありませんでした。

作品と字幕(吹替もね)が合うと、こんなにどっぷりと作品の世界観に浸れるのだと、改めて実感した作品でした。


そんなわけで、美しい字幕に大いに刺激を受けたので、いつもより多めに見直しをしている今日この頃。

そうそう、『裏切りのサーカス』では松浦美奈さんの神訳(字幕)が同業者の間で話題になりました。

こちらも心からお薦めです!


☆担当作公開情報☆

『名画泥棒 ルーベン・ブラント』EUフィルムデーズ2025にて公開!(5月17日、20日)

*ハンガリーのアニメ作品。強迫性障害を患う一風変わった犯罪者たちを、アートセラピーで診る精神科医ルーベン、自身も名画のモチーフに襲われる悪夢に悩まされていた。独特のタッチで描くシュールでアートな大人のアニメ。音楽も凝っていて、オリジナリティ溢れる快作!


『We Live In Time この時を生きて』6月6日より全国順次公開!

*自由奔放な新進気鋭のシェフ、アルムート(フローレンス・ピュー)と、慎重で穏やかなデータ管理職のトビアス(アンドリュー・ガーフィールド)の愛の物語。2人のケミストリーが最高で、生きる喜びを心の底から感じられる素敵な作品です♡



前回の更新から間が空いてしまいました。

翻訳の仕事が詰まるとブログを書きたくなるけれど、書く仕事が続くとブログがおざなりになるという…。

どんな発信手段であれ、定期投稿を続けている方々を改めて尊敬いたします。


今回は、ずっと書きたかった読書日記をお届けします。テーマは、USJ再建の立役者として知られる森岡毅さんのビジネス書『苦しかったときの話をしようか』。マーケティングの視点からキャリア設計を解説した一冊で、少し前に読んで強く感銘を受けました。

ビジネス書と言っても、就職活動に悩む娘さんに向けて書かれたものなので、私のようなマーケ知識ゼロの読者でも分かりやすい!

キャリアの設計図と書きましたが、仕事は人生の目的に向かうための手段、豊かな人生を送るためにもパースペクティブ(視野)を広げよう、そのためにどうする?という人生指南にもなっています。


詳しくは本書を読んでもらうとして、私が深くうなずいたのは、こちら。

キャリアの目的を見つけるには「具体的な“こと”から発想するのではなく、“どんな状態”であれば自分はハッピーだろうかという未来の理想“状態”から発想すること」

確かに、字幕翻訳を始めた頃に「劇場公開作を手がける」という具体的な目標を掲げていた頃と、「映画やドラマの翻訳をしながら、大好きな人たちと笑って過ごし、たまにフラッと旅に出る生活」という”状態”を目的にしている今とでは、日々の過ごし方や仕事への取り組み方が一変しました。

理想の"状態"を明確にすることの効果を実感。本当におすすめのアプローチです!


仕事を選ぶうえで「自分の強みを生かせ」とはよく言われますが、じゃあ自分の強みって何?という話も面白い。

本書では、その強み(特徴)を3分類しています。

・Tの人(Thinking)

・Cの人(Communication)

・Lの人(Leadership)


詳しい分類の仕方と説明は割愛して、笑っちゃったのが、私はかなり偏ったCの人だということ。

Cの人は「強い対人コミュニケーションを武器に使い、人と人を繋げることで新たな価値を生み出していく」。ま~さ~に!

翻訳だけをやっていた頃より、憧れの諸先輩方にインタビューしたり、志を同じくする仲間の話を記事にしたり、同業者を繋げる映像翻訳者の会を作ったりしてからのほうが、人生を何倍も楽しんでます。


ここ数年、「自分の役割を知り、まっとうする」ということを意識しているのですが、私の役割は人を繋ぐこと。「これでいいのだ」と、お墨付きをもらった気がしました。


森岡さんが自分の弱みをカバーするために、必死に強みを磨き上げる話もグッときます。Kindleで読んだのですが、息子たちにも読んでほしいから紙でも買っちゃいそう。

最後に森岡さんの言葉を皆さんと私に贈ります。

「方向だけは間違わず、遠くに向かって思い切りぶっ飛べ!」

私からの補足を一つ。人生の道は修正可能です。方向が少々違っても軌道修正すればいい。

まずは思い切りぶっ飛んでみましょう!

ただいま、字幕担当作『Playground / 校庭』が公開中なので、SNSなどでせっせと宣伝しています。

おかげさまで好評のようで、あちこちのメディアで紹介されています。友人や知人から直接ご感想もいただき、ほんっとうに嬉しいです! ありがとうございます。


こうして宣伝しているときって、「ご活躍ですね」とか「お忙しそう」と言われるのですが、そうとは限りません(キッパリ)!

担当作が公開されたり配信されている頃には、作品はすっかり手を離れているので、別の作品が手元になければヒマです。で、今の私がその状態です。

作品の公開が続くと「いつも忙しそうな売れっ子」感がありますが、そこはフリーランス。プツッと仕事が途絶えるときがあります。

そんなとき、どうする?というお話。


キャリアが浅い頃は、仕事が途絶えるたびに「何かやらかした?」と青ざめていましたが、さすがに経歴20年を超えると肝が据わります。

「そういう時期なんだな」と、達観というか、あきらめの境地。ジタバタしなくなりました。

だからといって、何もしないわけではありません。次の仕事のために何ができるか考えて、できることをやっていきます。

作品リストを見直して制作会社に送ったり、Wakkaの公開プロフを更新したり、オンライン講座の準備をしたり(4月から始まります!)。


それから、ここぞとばかりに映画館に足を運びます。

だって、今は観たい映画が目白押し。しかも、敬愛する諸先輩方が字幕を手がけているとあらば、学ぶことばかり。

メモを片手に行きますが、結局のめりこんで観てしまい、読めない走り書きが残るだけ。それもまた楽し♪

諸先輩だけでなく、友人知人が字幕を手がける作品も多く、そんなときは学びと共に「私もがんばろ!」と刺激ももらいます。

(実際の心の叫びは「クソ~!私も訳したいぞ!」なのは内緒。これもモチベーションアップの秘訣!)


もちろん、旅をしたり、人に会ったりも。これが何よりの私の活力源ですから。

少し前までは、スケジュールが空きそうになると、やたらと予定を詰め込んでいました。そうすると、急に仕事が入ったときにドタキャン大王に変身。

さすがに学んだので、今はスケジュールにゆとりを持たせて組んでいます。


そうこうしているうちに、また仕事に追われる日々がやってきます(絶対に!)。そのときに慌てないように備えて、気力と活力を満たしておくのが私のヒマなときの過ごし方。


そうそう、翻訳脳を眠らせないようにするのも、大事なポイント。

仕事を忘れて思い切り楽しみつつも、翻訳脳は少しでも動かしておくことを意識しています。

私にとってはブログを書いたり、本を読んだり、映画を観たりすることも、翻訳脳を鍛える手段になってます。人と話すことも、その1つ。

翻訳の勉強そのものじゃなくても、日本語のインプットとアウトプットをすることで、翻訳に必要な想像力や表現の幅が広がります。


さて、今週は『ウィキッド』を観る予定。楽しみ!


4月開講の字幕翻訳のオンライン講座「岩辺ゼミ」の募集が始まりました。「岩辺ゼミ」って何だかカッコいい!

ご興味のある方は、リンクをどうぞ♪

アカデミー賞の授賞式に合わせて受賞作やノミネート作の映画公開が続いています。

映画ファンにとっては嬉しい悲鳴を上げる日々。もう少し公開をずらして~!と叫びつつ、仕事の隙を見ては、いそいそと映画館に通っています。


ボブ・ディランの無名時代からスターになる数年を描いた『名もなき者』は、シャラメのなりきりぶりも、石田泰子さんの字幕(特に歌詞!)も最高!キャストも音楽も歌詞も素晴らしくて必見です。


で・す・が、そのあとに観た『アノーラ』が好きすぎました!

アメリカのセックスワーカーを温かい目で撮り続けるショーン・ベイカー監督ですが、今回はロシアの大富豪が絡んで話の規模が大きくなり、ドタバタコメディ要素も満載。「シンデレラ・ストーリー」の宣伝文句を「け!」と一蹴するような小気味よさ。カンヌやアカデミーの賞を総なめしたのも納得。


アメリカ社会の底辺のほうに生きる人々を包み込むように、同情せずジャッジせず成長を促しもせず、ありのままに描くベイカー作品は、ライムスター宇多丸さん「落語の長屋もの」という評が言い得て妙! 男性は愛すべきクズで、女性はしたたかでたくましい。

字幕を担当させていただいた『レッド・ロケット』はクズ男が主人公で「こいつ、クソだな」と思いながら訳しましたが(失礼!)。

今回の『アノーラ』(字幕は吉川美奈子さん)は大好きな『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(字幕は石田泰子さん)の女の子がそのまま大きくなったような、ちょっと繋がった感じがしました。


でね、『アノーラ』を観たあとに「あ~訳したかったな!」って思ったんです。吉川さんの字幕は素晴らしくて、それをどうこうしたいというんじゃなくて、ただ好きだから訳したい!

社会からはみ出した人たちを描いた作品が好きで、そういう人たちの感情が溢れ出る言葉を訳すのが好き。その人の本音が見える言葉や会話、心をぶつけ合うような言い合い。それをピッタリの日本語に変換できたと思えた時が最高!

改めて、そう実感しました。

私にとって、ロードムービーも天才や偉人の人生譚も、おなかがキリキリするようなサスペンスも、サイコな殺人鬼やマッドサイエンティストのホラーも、弾けまくったミュージカルもキラッキラなファンタジーも、多かれ少なかれ世間からはみだした人たちの物語。だから、好きなジャンルを聞かれると、ちょっと困るのかも。


さて、現在公開中の字幕担当作『Playground / 校庭』も、小学校になかなかなじめず“はみだしてる”ノラちゃんのお話。アカデミー賞絡みの大作がズラリと並ぶ中、健闘しております!映画館で没入して観たい作品なので、劇場へ足を運んでいただけると嬉しいです。


また、フランス映画祭2025で公開される字幕担当作『My Everything』は、発達障害の息子の自立と向き合うシングルマザーのお話。こちらも、彼女の本音が炸裂するセリフが刺さりすぎて、訳すのが痛かったくらいです。3月22日の上映日には、監督の舞台挨拶もあります。タイミングが合えば、こちらもぜひ!


というわけで、しばらく映画日記が続きそうな予感です♡

アカデミー賞の発表が近づいてきましたね。それに合わせてノミネート作品が続々と日本公開され、映画好きとしては嬉しいやら慌ただしいやら落ち着きません。


そんな中、字幕担当作『Playground / 校庭』が3月7日に公開されます!

こちら、カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞受賞アカデミー賞国際長編映画賞ショートリスト選出のベルギー映画。72分と短いながらも、凝縮された世界観に圧倒される作品です。


小学校に上がったばかりの少女ノラは引っ込み思案で、大好きなお兄ちゃんのアベルだけが頼り。だけど、学校で会うお兄ちゃんは冷たくて、友達はなかなかできないし、体育の授業はちょっと怖い。それでも、少しずつ学校に馴染んでいくにつれて、家族の見え方も変わってきて・・・。

音楽なしで、ひたすらノラの目線とアップを追って描かれる学校という世界。それまで大好きな家族に包まれていた世界が揺らぐ不安、大人の目線とのズレ、どうしたらいいか分からなくて、いっぱいいっぱいな気持ち。ノラの気持ちがスクリーンから溢れ出て、自分の小学校の記憶と重ねてしまいます。「あ~そうだったな」って。

この作品を観ると、正解を教えてくれる大人より、一緒に悩んでくれる大人の存在がどんなにありがたいか分かります。そういう大人、私が子供の時にいた覚えがない。いてくれたら、また違ったかな。・・・そんなことを、あれこれ考えながら訳しました。


翻訳の話を少しすると、子供の言葉って字幕にしにくいんです。字数制限がある中で「兄」としたいけれど、やっぱりノラの年なら「お兄ちゃん」か名前の「アベル」だし、難しい漢字が並ぶのも違和感があるし、かといって平仮名ばかりだと読みにくい。ちょっと無駄のある言い方をするのが子供ならではだったりするし。それでも、子供の口調を考えるのは楽しかった♡


派手さはないけれど、心の奥底に響く作品です。ぜひぜひ、いろんな方に観てほしい。

憧れの文芸翻訳家、三辺律子さんがX(旧ツイッター)で絶賛してくれているのも嬉しかったです♡

地域によっては4月以降の公開になるようです。出会いと別れの季節にぜひ♪

こんにちは。

2月とは思えない暖かな週末、鎌倉に字幕翻訳者と関係者が大集合しました。

と言っても、そんなことになるとは思わず、あるトークイベントに参加したら、あちらもこちらも関係者だった、という話。


トークイベントは鎌倉市川喜多映画記念館企画展「映画字幕翻訳の仕事 1秒4文字の魔術」の一環で、ザ・字幕翻訳者の菊地浩司さん石田泰子さんが対談するというもの。

タイトルは「血の通った字幕をつくるために」。もうこれだけでカッコいい♡


憧れの大先輩方のお話を生で聴けるということで、Wakkaの翻訳仲間と喜び勇んで駆けつけました。大阪、京都から参加したツワモノも!

いや、このお2人の対談とあらば、新幹線でも飛行機でも来る気持ち、分かります。


会場に着くとゼミでお世話になったAZ先生(いちおう伏せてみる)をはじめ、スクリーンでよく名前を目にする方々が何人もいて、舞い上がっちゃいました。

制作会社や配給会社など映画関係者の方々も! メールのやり取りだけだった方や、お久しぶりの方々にも会えて感無量♡

トークの内容も、先人たちが映画字幕と真摯に向き合ってきたおかげで今があるということがよく分かり、背筋が伸びる思いでした。


イベントのあとは鎌倉散歩をしながら鶴岡八幡宮でお参りをして、プチオフ会。

ほどよい人数で、初めましての方ともゆっくり話せて楽しかった~!

字幕翻訳に携わる喜びを、じっくりと嚙み締めた一日でした。

それもこれも、イベントのチケット取りからプチオフ会まで企画して、裏道を案内してくれた鎌倉在住の映像翻訳者Masakiさんのおかげ♡

ありがとうございました!


企画展は3月いっぱいまで。3月29日には『瞳を閉じて』の上映つきで字幕を担当された原田りえさんのトークイベントがあります!

他にも映画の上映があるし(ジャック・ドゥミの『ローラ』も!)、建物もステキなので鎌倉散歩のついでにぜひ♪

舞い上がりすぎて企画展を観る時間がなかったので、私も出直します。

2月です。節分を終えて立春を迎え、旧暦の新年が始まりました。

今年は映画日記も月1で書こうと思います。はい、旧暦スタートです。

「この字幕が好き!」シリーズも続けますが、メモを取らなきゃと思うと素直に楽しめないので、のんびりやります♡


初回はクリント・イーストウッド監督の『陪審員2番』

年初に観た『ロボット・ドリームズ』も、とっても好きで迷ったのですが、字幕翻訳者のブログということで、こちらにしました。

『ロボット・ドリームズ』の字幕は10~20枚ほど? 少ないからこその難しさもありますが、それはまた別の機会に。とてもいい作品なので、ぜひご覧ください♡)


イーストウッド最後の作品とも言われ、93歳の時に撮影を開始し、94歳で完成。すごすぎます!

正直なところ、彼の作品には苦手なものもあるのですが、本作は素晴らしかったです。ずっと緊張感が続き、本来なら劇場でおなかがキリキリしながら観たい作品。

イーストウッドらしいアメリカの良心を問う内容で、カメラが1人1人の心情をあぶり出している。観終わったあとも、ベッドの中でグルグル考えちゃいました。(夜は観ないほうがいいかも?)

トニ・コレットとニコラス・ホルト(『アバウト・ア・ボーイ』の男の子なんですね)の目が頭から離れません!


字幕は、われらがチオキ真理さん!

それぞれのキャラがしっかり出ているし、法律用語が飛び交う裁判シーンも要点を押さえていて分かりやすい。緻密な字幕、と言えば伝わるでしょうか。友達だよ!と自慢しておきます♡


素晴らしい作品なのに、アカデミー賞の賞レースに絡んでないのが不思議。せめて脚本賞にノミネートされてもいいのでは?

ドイツの友人に薦めたら、向こうでは劇場公開をしていたとか。うらやましい!

日本ではU-NEXTでの配信のみなのが本当に残念。観られる環境にあるラッキーな方、必見です!