この字幕が好き!『教皇選挙』

新しいローマ教皇を決めるコンクラーベが始まりますね。世界中から枢機卿が集まって行う秘密投票と聞くだけで、好奇心がかき立てられます。

私が初めてコンクラーベを知ったのは、ダン・ブラウン『天使と悪魔』でした。そして今、その神秘に迫る映画『教皇選挙』が話題沸騰中。

先日ようやく観てきたのですが、どの回も満席。映画館があんなにごった返しているのを、久しぶりに見ました。それだけでも、ワクワクします。


映画は前評判どおり、キリキリするような心理サスペンス。立派な枢機卿たちがタヌキに見えてくるほど(失礼!)、化かし合いと腹の探り合いがすさまじい。

脚本(脚色)は『裏切りのサーカス』ピーター・ストローハンなんですね。納得!監督は『西部戦線異状なし』エドワード・ベルガー。主役のレイフ・ファインズもハマり役でした。


ストーリーについては、鑑賞後に公式サイトにある大人気ライターISOさんのネタバレ解説を読んでいただくとして、翻訳者としては、やはり字幕に触れられずにいられません!


もうね、同業者の間で話題になるほど、渡邉貴子さんの字幕が素晴らしいんです。前にドラマの翻訳でご一緒した時に、歴史ものにピッタリの格調高い渡邉さんの訳に、「これぞ美しい日本語」とうなりました。

『教皇選挙』では、日本人になじみのないテーマで専門用語が飛び交い、英語とイタリア語とスペイン語とラテン語と…いくつもの言語が使われ、セリフ劇のミステリー。想像するだけで、はげそうです。

それを字数制限の中で必要な情報を入れつつ読みやすく整理して、なおかつ作品に合った日本語にするという神業。


さらに、短い決めゼリフの訳がまたカッコいいんです!

例えば、同業の友人があげていた、こちらの字幕。レイフ・ファインズが型通りのスピーチを切り上げる時のひと言。


But you all know that.

つまらんな


はい、これ、私も「うお!」って声が出そうでした。

こちらも好き。


Don’t be naive!

きれい事を!


こういう短いセリフの字幕が、話者の表情や声のトーンとピタッと合うと気持ちいい!

どこのセリフかは、ぜひ劇場でご確認ください。

本当はもっと長い字幕もあげたいんですが、書き取る余裕はまったくありませんでした。

作品と字幕(吹替もね)が合うと、こんなにどっぷりと作品の世界観に浸れるのだと、改めて実感した作品でした。


そんなわけで、美しい字幕に大いに刺激を受けたので、いつもより多めに見直しをしている今日この頃。

そうそう、『裏切りのサーカス』では松浦美奈さんの神訳(字幕)が同業者の間で話題になりました。

こちらも心からお薦めです!


☆担当作公開情報☆

『名画泥棒 ルーベン・ブラント』EUフィルムデーズ2025にて公開!(5月17日、20日)

*ハンガリーのアニメ作品。強迫性障害を患う一風変わった犯罪者たちを、アートセラピーで診る精神科医ルーベン、自身も名画のモチーフに襲われる悪夢に悩まされていた。独特のタッチで描くシュールでアートな大人のアニメ。音楽も凝っていて、オリジナリティ溢れる快作!


『We Live In Time この時を生きて』6月6日より全国順次公開!

*自由奔放な新進気鋭のシェフ、アルムート(フローレンス・ピュー)と、慎重で穏やかなデータ管理職のトビアス(アンドリュー・ガーフィールド)の愛の物語。2人のケミストリーが最高で、生きる喜びを心の底から感じられる素敵な作品です♡



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旅する翻訳家のお仕事日記

岩辺いずみ   字幕翻訳家&ライター。英語、フランス語を中心に映画やドラマの字幕を手がけています。 カナダに1年、スイスに1年、アメリカに4年、フランスにちょこっと滞在。 翻訳を中心に、映画と旅とお酒の話を綴ります。 息子2人のシングルマザー。 子育ても終わりつつあるので、のんびり海暮らしへ移行中。 ★WORKSの「記事一覧」からブログを開くとコメントを残せます。