この字幕が好き! 『フェイブルマンズ』

すっかり月一ブログになってしまいました(汗)

おかげさまで「映像翻訳者の会 Wakka」が無事にグランドオープンを果たし、会員数もあっという間に100人を超えました! ありがとうございます! Wakkaについては改めて書くことにして、今回は久しぶりに「この字幕が好き!」シリーズです。

周りの映画好きに、やたらとお薦めされていた『フェイブルマンズ』。何とか駆け込みで観てきました。

いや~よかった…。心の底からじわじわと温かいものがあふれ出て、幸せに包まれて、しばらく席を立てませんでした。

スティーヴン・スピルバーグの自伝的な物語なので、決して幸せな話だけではないし、芸術にとりつかれてしまった人たちの葛藤や、そうでない人たちの戸惑い、双方の間の埋められないギャップ、衝突、憧れの世界に足を踏み入れる喜び…。そういったものが、すべて描かれていて、天才と重ねるのはおこがましいけれど、自分ごととしてリアルに感じられました。思い出しても泣ける・・・。スピルバーグ、恐るべし。この映画を撮ってくれて、ありがとう!

で、あまりに入り込んで観てしまったので、字幕も原音もちゃんとメモしておらず…。だけど、どうしても伝えたいので書きます! 絶対にまた観るので、確認したら書き直します! (原文はネットに公開されているスクリプトで確認をしました。)

字幕はザ・字幕翻訳家! 我らが戸田奈津子さんです。


まずは冒頭、少年サミーが両親と初めて映画館へ行くシーン。怖がるサミーにママが言います。

You just wait and see, when it’s over, you’re gonna have the biggest sloppiest smile on your face.

観終わったら

笑顔がこぼれっぱなしよ


前半うろ覚えですが(ごめんなさい!)、「笑顔がこぼれっぱなし」に、うわ~好き~と心で叫んでしまいました。the biggest sloppiest smileって日本語にしにくい表現ですが、「笑顔がこぼれっぱなし」! いかにもサミーのママが言いそうだし、こっちの顔がほころんじゃう日本語です。


Everybody makes movies in California!

向こうは映画の都だ


こちらは戸田さんらしいと感じた字幕。直訳すれば「カリフォルニアでは誰もが映画を撮る」ですが、これだけの情報量を9文字に凝縮。それでいて自然な、いかにも言いそうな日本語。この思い切りの良さとセンス。さすがです。

戸田さんの字幕にはドラマがあるというか、話者の人間味を感じられるところがあって、そこがすごく好き。私は戸田さんの字幕で育った世代なので、余計に思い入れがあるのかもしれません。その戸田さんの字幕でスピルバーグの自伝的映画を観られる幸せ♡ 『E.T.』『グーニーズ』の頃からスピルバーグ作品を訳してきた戸田さんだからこそ、作れた字幕があるのではないかと勝手に推測しています。(戸田さん、戸田さん、うるさくてすみません!)


最後に、心に刺さったセリフ。

You do what your heart says you have to.

ありのままの自分を生きて


Because you don’t owe anyone your life.

誰にも負い目は要らない


確か字幕はこうだったかと…。(早く見直したい!)

「ありのままの自分を生きる」というのは耳馴染みのいい言葉だけれど、すごく難しいこと。だけど人生は思っているより短い。あとで後悔するくらいなら、なるべく早く思い切って「ありのままの自分」を生きたほうがいいと思うのです。

『フェイブルマンズ』、これから上映するところもあるようなので、ぜひ機会を見つけて観てください。語り合いたいです!

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旅する翻訳家のお仕事日記

岩辺いずみ   字幕翻訳家&ライター。英語、フランス語を中心に映画やドラマの字幕を手がけています。 カナダに1年、スイスに1年、アメリカに4年、フランスにちょこっと滞在。 翻訳を中心に、映画と旅とお酒の話を綴ります。 息子2人のシングルマザー。 子育ても終わりつつあるので、のんびり海暮らしへ移行中。 ★WORKSの「記事一覧」からブログを開くとコメントを残せます。