ただいま字幕担当作2本が公開中! 1本はカンバーバッチさまの猫まみれビジュアルが話題の『ルイス・ウェイン 生涯愛した妻とネコ』で、12月1日より全国公開。もう1本はキノフェスの『マイ・ドッグ・ステューピッド』(フランス語のタイトルは"Mon Chien Stupide")。こちらは12月2日~1週間の限定上映です。そう、猫と犬の映画が同時公開中なんです!
『マイ・ドッグ・ステューピッド』は、その名のとおりおバカな犬がモチーフ。売れない中年作家アンリが、おバカな犬を飼ったことをきっかけに、子供の巣立ちや夫婦の問題に向き合う話です。
アメリカの作家ジョン・ファンテの自伝的小説『犬と負け犬』(原作は秋田犬!)をフランスに舞台を移して映画化したもので、監督・脚本・主演はイヴァン・アタル。実生活でもパートナーのシャルロット・ゲンズブールが妻役です。
この組み合わせにピンときた人は、かなりのフランス映画通! そう、2001年に『ぼくの妻はシャルロット・ゲンズブール』(日本公開は2003年)という、そのまんまなタイトルの映画と同じなのです。これがイヴァンの長編監督デビュー作。
まだ私が映像翻訳者になりたての頃、この映画のコメンタリーの仕事をいただきました。本編の映像を見ながらイヴァンがダラダラ、いえ、詳しく裏話をするもので、かな~り苦労したのを覚えています。確か素材はVHSでもらったのですが、時間短縮のためにもSST(字幕制作ソフト)を使って作業をしたかったので、VHSをテレビで流して、それをビデオカメラで録画して、映像を変換したような…。とってもややこしいことをした記憶があります。
とにかく手探りでコメンタリー字幕を納品したのが年末に近かったはず。制作会社からいただいた年賀状に「とてもいい字幕をつけていただき、ありがとうございました」と書かれていたのです! たぶん、それが字幕で初めていただいた誉め言葉。うれしくて、その年賀状をしばらく手帳に挟んでお守りにしていました。
そんな思い入れのある映画と同じ組み合わせの本作。しかも35歳だったイヴァンは映画で55歳になり、シャルロットは相変わらず素敵だけれど同じように年を取り、キラキラだった夫婦は不満だらけの中年夫婦に。(もちろん映画の世界の話で、現実はキラキラのままかもしれないけど。)
私にとってシャルロットは永遠の憧れで、イヴァンのインテリで偏屈っぽい感じも大好き。そんな2人の中年夫婦の姿はものすごくリアルだし、理想どおりに育たなかった4人の子供たちに振り回される姿は痛々しくて、自分を見てるみたいでした(笑)
映画はアンリ(イヴァン)の目線で描かれます。すべてを捨ててイタリアで人生をやり直せたらどんなにいいか。そんなことばかり考えるアンリが、子供たちが巣立つにつれて妻と真剣に向き合うことになり、わが身を振り返り…。
もうね、アンリの独白が刺さりすぎて、見直すたびに涙ぐみました。うんうん、分かるよって。
この作品をこのタイミングで訳せて心から幸せ。私のところに来てくれてありがとう。そう思いながら訳した作品です。
長く仕事を続けていると、こういうご褒美みたいなことがたまにあります。これがあるから続けられる。
地味だし、刺さる人はかぎられるかもしれないけれど、とっても思い入れのある大好きな作品なので、観ていただけたらうれしいです。
ちなみに長男役はイヴァンとシャルロットの息子君。『ぼくの妻~』のちびっこが立派に成長していて、こちらも感慨深かったです♡
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