ようやく秋めいてきました。モンブランと栗きんとんの季節です。栗づくし♡
この夏は引っ越しという重大ミッションがあったので、無事に秋を迎えられて感慨ひとしお。ものすご~く大変でしたが、半年間ずっと気がかりだったことが片付いて、スッキリしました。
さあ、仕事に集中! と、その前に観た映画が話題作『ワン・バトル・アフター・アナザー』!
ポール・トーマス・アンダーソン監督×レオナルド・ディカプリオ×ベニチオ・デル・トロ×ショーン・ペンとあらば、面白くないわけがない。3時間という超長尺も『RRR』や『国宝』で免疫がついているから問題なし!
案の定あっという間で、終わるのが寂しくなるほど最高にワクワクする映画体験でした。アメリカの映画館でポップコーンを抱えながら、笑って叫んで盛り上がって観たい映画です。
でね、この映画体験をさらに盛り上げてくれたのが字幕! 翻訳仲間の間で「すごい」と話題になるほどで、私もたくさんメモしちゃいました。
字幕を手がけたのは、同業者だけでなく映画好きの間でも絶大な信頼を得る松浦美奈さん。もう惚れぼれする字幕でした。
Is this funny? 「茶化す気か?」、Fuck out here. 「目障りなだけ」、Don’t panic. 「テンパるな」、Don’t get selfish. 「うぬぼれるな」などなど、マネしたい訳がたくさん。
中でも特筆すべきは、レオ演じる父親が高校生の娘に友人について聞く会話です。
父:Now is that a he or a she or a they?
heかsheかtheyか?
父:Are they transitioning? I want to know.
性別移行中か
娘:Nonbinary.
ノンバイナリーよ
娘:It’s not that hard, they, them.
簡単でしょ they / themよ
なんと、近年、翻訳者を悩ませている三人称単数のtheyが、そのまま登場しました!
私が最初にこのtheyを目にしたのは2016年、ドラマ『ビリオンズ』のシーズン2。10年近く前です。
北米のドラマで初めてノンバイナリーのキャラが登場し、「私の三人称は単数扱いのtheyで」と自己紹介。初めて見る使い方で「はて?」と、ネットで調べて「女性とも男性とも分けられたくない人が好む代名詞」だと知りました。そのときはノンバイナリーもtheyも日本で知られていなかったのもあり、悩んだ末に「彼ら」と訳しました。あれからずっと気になっていて、今なら「あの人」と訳すかな、字幕だとそれも分かりづらいかもと、ことあるごとに考えています。
そんな中でのthey。事前に同業者から聞いていたものの、声を上げそうになりました。
前に文芸翻訳家の方と話していて、「ゼイ」と訳す案が出ましたが、注釈をつけられない字幕では厳しいなぁと思ったのが本音です。今回のtheyは流れの分かりやすさもありますが、ノンバイナリーが浸透してきたことの表れでもある。実際、このやり取りの時に軽い笑い声が聞こえたので、ちゃんと伝わっているんだなと、なんだかうれしくなりました。
今後、ノンバイナリーのtheyを「they」と訳すかどうかは、作品のコンテクストやセリフ、視聴者層にもよるでしょう。勝手な憶測ではありますが、大ベテランの字幕翻訳家とはいえ、「they」と訳すのは勇気が要ることですし、制作会社や配給会社との信頼関係あってこそだと思います。字幕の素晴らしさもさることながら、いろんな意味で、あの域にたどり着くには越えなきゃならない大河が何本もあると、つくづく思い知りました。
憧れの先輩方がいて、近づいたと思ったら、また引き離される。だからこそ、飽きないし面白い! 翻訳に限らず、先人の背を追いかけて好きなことを突き詰められるのは、人生の喜びですね。
さて、そんな私が、字幕学習サイトvShareRでオンラインの字幕講座「岩辺ゼミ」第2期をやります。自称「中堅」だからこそ、教えられることもあるはず。少しでも、お役に立てればうれしいです。
おかげさまで1期は人に恵まれ、今も楽しく情報シェアをしています。2期での一期一会の出会いも楽しみにしています!
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