訳す喜び、観る喜び

字幕を担当した映画『サントメール ある被告』の上映が始まりました!

無名の監督ながら、2022年最高のフランス映画と称賛され、ヴェネチア映画祭で銀獅子賞と新人監督賞を受賞。実際に起きた母親による幼児殺害を基に、その裁判記録をそのままセリフに使用するという手法を取った話題作です。

公開を記念してアリス・ディオップ監督が来日し、トークショーが行われたのですが、配給会社のご好意で最終日にうかがうことができました。うれしい!

正直なところ、話題作とはいえ無名の監督だし、有名な俳優も出ていないし、気軽に観られる作品ではないし、そんなに人は集まらないと思っていたんです。それが、広い客席はほぼ埋まり、上映後の監督トークでは次々と質問が出て、大盛況! すごい! 甘く見ていてごめんなさい!

しかも皆さん、すごく深く観てくださっていて、感激しました。


だってね、フランスの法廷劇なのでね、翻訳するのにかな~り苦労したんです。特に法廷の場面では大事なことしか言わないのに、字数制限の壁が立ちはだかる! しかも敬語メイン! フルネームも入れなきゃ! 町の名前が長い! 字数ががが! ・・・という状況でした(笑

フランスの司法制度も独特なので、用語を調べるのが大変でした。最終的に日仏の弁護士資格を持つ金塚彩乃さんに監修をしていただけて、本当に助かりました。ありがとうございます!(それでも、監修に見せられるように訳すまでが・・・泣)

金塚さんはパンフレットに、フランスの裁判制度についてコラムを書いています。私の歌詞訳も掲載していただいたので、お買い求めいただけたらうれしいです♪


そんなこんなで苦労した分、思い入れもあり。しかもとってもいい作品なので、あちこちのメディアで取り上げていただき、劇場に観客が集まるのを見ると、わが子が認められたような気分。

今回は友人4人が時間を作って一緒に鑑賞してくれました。観客の方々の感想も聞けて、反応をダイレクトに感じられて、訳してよかったとしみじみ。

やっぱり映画は観てもらってナンボ。こうして劇場に足を運んでくれる人がいて、感想を聞けるのは、このうえない幸せ。それが「よく分からなかった」でも、「好みじゃない」でもいいんです。(翻訳のせい?と不安になることはありますが。)

映画は観る人のもの。それぞれの思いを共有できる映画館って、最高!


さらに感激したのが、監督の通訳をしたフランス語通訳の第一人者、人見有羽子さんの仕事ぶり。前からフランス映画祭などでお目にかかるたび、すごい・・・と尊敬していましたが、今回はその本領発揮! 人見さんでなければ無理と思うような内容で、本当に素晴らしかったです。

いつか一緒に飲みながらお話したい♡(書くと叶うの法則を期待!)

配給会社の社長に久しぶりに会えたのも、ひそかな喜びでした。(たまにネタにさせていただいている元パパ友です。)


最後にディオップ監督の言葉をシェア。

「見えないものを可視化するのが芸術や映画、自分の役割」

そこに末端でも携われることに感謝を込めて♡

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旅する翻訳家のお仕事日記

岩辺いずみ   字幕翻訳家&ライター。英語、フランス語を中心に映画やドラマの字幕を手がけています。 カナダに1年、スイスに1年、アメリカに4年、フランスにちょこっと滞在。 翻訳を中心に、映画と旅とお酒の話を綴ります。 息子2人のシングルマザー。 子育ても終わりつつあるので、のんびり海暮らしへ移行中。 ★WORKSの「記事一覧」からブログを開くとコメントを残せます。